重力に従って下へ下へと落ちていく。
もう、自分にも止められない。
例えば、今のように公的な場所で日本の隣にいるのは大抵アメリカだ。
今回のように世界の多くの国が集まる場所ではもちろん、そうでない時にも日本の隣にはアメリカが居る。
ギリシャが日本の家を訪れる時もしょっちゅうアメリカから電話が掛かって来る。
あと、位置的な関係でアジア諸国と共にいることも多い。
中国や韓国と微妙な顔をしながらも良く話し合いをしているようだ。
他国に頼らなければいけない日本は小さい体を酷使して様々な国と交友している。
お国柄なのだろうか、仕事中毒が板についているのかもしれない。
ギリシャはたまに日本を攫って自分の家に閉じ込めてしまいたい衝動に駆られる時がある。
それは日本がアメリカの隣に当たり前の顔をして居る時だったりとか、嫌そうな顔をしながらも、時に懐かしそうに中国や韓国を見ている時だったりとか。
特にそう思うときはトルコと日本が二人きりで居る時だ。
ギリシャが日本の家の引き戸を開けて、縁側で二人仲良く談笑して居るところを見たときのギリシャの顔なぞ、決して日本に見せることは出来ないだろう。
そして、そんなギリシャを見てトルコは決まって余裕の笑みを浮かべて見せるのだ。
トルコとの喧嘩はそうして始まったりもするのだが、日本は原因など気付かないだろう。
否、気付いてもきっと困ったような曖昧な顔をするだけに違いない。
日本には一番の次に来る国を決めることは出来ないからだ。
ギリシャの中に静かに蓄積している負の感情も一気に霧散する瞬間がある。
(!・・・日本)
日本とギリシャの視線が重なる。
距離が遠いから彼がギリシャを見ているという、ということが正しいかどうかは解らない。
しかし、次の瞬間日本はこちらに向かって小さく見えないように手を振って見せた。
その顔には微少ながら微笑みも浮かんでいるように思える。
(きっと日本は、俺の気持ちが解っていない)
日本のこういう小さな心遣いに、ギリシャの霧散した筈の負の感情は更に累積して心に跳ね返ってくる。
ギリシャには、日本が思っている以上に思い感情を彼に押し付けようとする自分がいる事に気付いていた。
彼はきっとギリシャが日本を好きなことを知っている。
そこまでいかなくとも、嫌悪していることは無いと解っているのだろう。
しかし、日本の今のような心遣いはそこまで止まりと決め付けている行為である。
(俺は、もっと、日本が考えている以上に)
都合の良い勘違いが出来るほど、ギリシャは傲慢になれなかった。
もうこの思いは自分で押さえつけられない程に成長してしまっている。
日本に会うたびに、声を聞くたびにどんどん膨れ上がって、どんどん勢いを増していく。
己の容器の深さは不明である。
もしかしたら表面張力ぎりぎりで今にも溢れてしまうかもしれないのだ。
きっとこの思いを殺せるのは日本以外いないのだろう。
だが、そうしてもこの感情は完全に無に帰ることはない。
日本を思う、ということは消えない愛おしい傷となるだろう。
彼が酷く自分を嫌ってくれれば良い。
そうして初めて綺麗に諦められる。
そうしてギリシャを殺してくれれば良いのだ。
地面に落下していく物体の加速度がゼロになる前に、どうか自分を殺して欲しい。
加速度ゼロ
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一般的に加速度0のときに速度一定。
単振動の際には加速度0のときに速度Max。
・・・とか、ちょっと理系っぽいこと言ってみるけど間違ってたらすいませ・・・!