西の空から夜が始まっていく。
海が夕日に染まって眩しい。明日も晴れそうだ。
(静かだ)
ギリシャはそっと目を閉じる。
彼の頭は夕日が物悲しい理由を考えていた。
海からの風を受けてギリシャの髪が僅かに揺れる。
ふと気付くと何処からか入って来た猫がギリシャの足元に擦り寄ってきていた。
哲学というものはとても奥が深い。
答えというものは明確にはない。
その時に与えられている条件によって答えが変わってくる。
きっと猫が擦り寄って甘えるのは自分に懐いているのではなく、ただ単に腹が減っているのだろう。
ギリシャは常に問答を頭の中で繰り返す。
もう癖の様なものだ。
いつに無く消極的な考えをする理由は何故か。
甘えたように鳴く猫に何か食べ物をあげて、自分も夕飯にしようとギリシャは海に背を向けて部屋の中に入ろうとした。
振り返った部屋の中は暗い。
夕日が海に沈む前から窓辺にいたので電気をつけていなかった為だ。
ギリシャの背中の白いシャツがオレンジ色に染まる。
しんとした部屋。
ギリシャはもう一度海に目を向ける。
夕日は半分ほど沈んでいて、光が当たらない部分から海に夜が始まっている。
黒く揺蕩う波が、ある人物の目を彷彿させる。
もう彼の国では疾うに夜の中だ。
(・・・日本)

いつに無く消極的な理由は、悲しげな夕日を眺めていたからだ。
夕日が沈む様を物悲しいと思うのは、一日が夜に喰われていくからだ。
夜を思うと彼を思い出すのは、日本の目が漆黒だからだ。
では、彼への思いを葬れないのは何故か。

(それはきっと、彼のことが好きだから)

猫が鳴いた。
そろそろ夕飯の支度の時間だ。

01 夜葬
(夜に葬る)