白い仮面が机にぶつかって、かつんと音を立てた。
それは一種の儀式のようで、しかしいつも行っていることだ。
広がる視界。
仮面を付ける事に慣れているトルコには普通の世界は広く感じる。
日常生活で仮面をつけているトルコはあまり親しくない国々からは畏怖の目で見られることもしばしばだ。
しかし、それらを気にかけるほどトルコは狭量ではないし、興味も無い。
(必要なだけ、見られれば良い)
すべてが美しいとは言えないこの世界で、自分に必要なものだけを見つめていけば良い。
綺麗なものも、もちろん汚いものも。

一日が終わっていき、辺りが宵闇に包まれていく。
仮面を付けていてもそこから見えるのは夜に沈んだ町並みだけだろう。
トルコは白磁の表面をするりと撫でる。
甦る記憶。
トルコは他人に仮面を触られたり、外されたりすることが好きではない。
自分の何かも一緒に持っていかれそうになるからだ。
しかしあの時、彼はきっとトルコの仮面を外したのだろう。
悪夢から目覚めたときに、一番初めに目に入った彼の肌はトルコの仮面よりも白かった。
日本はトルコの恩人だ。
今でも夢でうなされるあの時の事件。日本は献身的に尽くしてくれた。
しかし、いつだってトルコが夢の後に思うのは不謹慎にも、あの時目に入ってきた日本の肌の白さと、泣きそうな顔の中に一片の希望を見つけた彼への愛おしさだった。

知らず力が入っていたのか、机に置かれた仮面がずれて再びかつんと鳴った。
この仮面を通して見えるのは必要なものだけで良い。
それは綺麗なものも、もちろん汚いものも。
そして、愛おしくて仕方が無いものを。
沈む夕日に、太陽を追いかけて自分と別れていったと云われる彼を思う。
(・・・飯にするか)
部屋を出て行くトルコの背中を夜が追いかけていった。
02 夜想
(夜を思う)