海からの夜風はしっとりと、しかし日本のそれとは違ってからっとした空気をギリシャに届ける。
唐突に日本の緑茶が飲みたくなった。
お茶葉を自分で淹れるのでは意味が無い。
日本が淹れてくれてこそ意味があるのだ。
日本の淹れるお茶には不思議な力があるように思えた。
(あれを飲むと・・・すごく寛ぐ)
爽やかな気分にさせる効果でもあるのだろうか。
あれを飲むとギリシャは決まって眠くなる。
そして、日本の飼い犬のぽちくんとギリシャに懐いてきた猫と一緒にエンガワで寝てしまうのだ。
それに流れる時間がゆっくりになる気もする。
(今度日本に聞いてみよう・・・)
もしかしたら日本がお茶を淹れる時に別のものも淹れているのかもしれない。
それともキュウスが特別なのかもしれない。
日本のことを考えるとギリシャの周りの時間もゆっくりと流れているように思える。
(母さんの残した遺跡の中にいる時と同じ)
穏やかな心にゆっくりと何かが染み渡っていく感覚。
それは日本が淹れた緑茶の最初の一口が、喉を通って全身に染み渡っていくことが解るのと不思議と類似する。
(もしかして、日本が魔法を使っているのかも)
日本だったらあながち嘘でもなさそうで、ギリシャは微笑んだ。
しかし、本当にそうだったとしてどんな魔法を使っているのか。
時が遅くなる魔法でも使っているのだろうか。
眠くなる魔法だろうか。
それは何故か?
日本もそうしてお茶を飲んでゆっくりするためだろうか。
ギリシャを帰さないためだろうか。
(本当にそうだったら、すてき)
ふんわりと笑うギリシャを見て、釣られた様に猫が鳴いた。
09 夜爽
(夜に爽やぐ)