#4

菊は確かな審美眼を持っている。
サディクやヘラクレスにはガラクタにしか見えないようなものも実は相当な物であるとか、逆にすごく高級品に見えても贋物であるとかを菊はぴたりと当ててみせる。
その度にグプタは目を細めて菊の指どおりの良い黒髪を撫でてやる。
それに気持ちよさそうに目元を緩める菊は、傍から見ると二匹の猫の親子のようだ。
菊はグプタの役に立てているのが嬉しいようだ。
(当たり前ぇか、拾ってもらった恩ってぇもんがある)
その他、サディクが知る限り菊は物以外にも景色などにも色々見出している様だ。
雨上がりの朝に、庭に咲いている花の雫を見てフウリュウですねぇと呟いているのを見たことがあった。
フウリュウとは、彼の国の言葉らしい。
(あと・・・あれだ、ワサビ?)
ワビサビのことを一生懸命説明してくれた菊だったが、サディクにはいまいち伝わらなかったらしい。

しかし、菊には嫌いなものがあった。
これは一番多く一緒にいるグプタだけが薄々気付いていることだが、菊は夕日が嫌いのようだ。
店の中に夕日がじわじわと侵食し始めると、菊はいつもふらっといなくなり、夕闇が迫り来る辺りにいつの間に戻ってきている。
だがそれが何故かなど、そんな野暮なことをグプタは聞かなかった。

ちなみに菊の最近のお気に入りは、これまたサディクの気に障るものだった。
不思議そうな顔でヘラクレスの目を覗き込む菊を、もう慣れたものでヘラクレスも勝手にさせている。
「マンゲキョウに似ていますね・・・」
ヘラクレスのオリーブ色の瞳に反射する光を見て、菊はさらに興味深げに覗く。
「菊の目はブラック・パールみたい・・・」
ヘラクレスも菊の珍しい黒い瞳が気になっていたらしく、じっくり観察している。
本人たちは良いのだろうが傍から見ると。
「・・・手前ぇら・・・いちゃつくなら他所でやれぃ!」
まあ当然ながら事実である。
「サディクは、羨ましいだけ・・・」
「んだとガキィ!おもて出ろや!」
最近ではこのやり取りにも慣れたのか、菊は僅かに微笑んでいる。
「仲が良いのですね」
「違ぇよ」
サディクの反射的なツッコミを華麗にスルーして菊は再びヘラクレスの瞳を覗き込む。
「世界が、緑色に見えている訳では無いのですよね」
綺麗ですねぇと笑う。
「菊には、何色に見える?」
「世界は一つです」
謎かけのような問答にヘラクレスもサディクも首を捻るばかりである。
しかし、やはりと云うべきか、グプタだけは何かを知っているかのように微笑んでいた。
(もう何だか慣れてきた自分が嫌になるぜぃ・・・)
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菊の過去とかちょっぴりずつ出現させたいですね




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