#3
菊が家に一緒に住むようになってから三男の帰りが早くなった。
どうやらグプタとヘラクレスには懐いているようだ。
グプタには拾ってもらった恩があるし、この間恥ずかしがりながらもヘラクレスのことをハークと愛称で呼んでいた。
「・・・ちっ」
サディクにはそれが面白くなかった。
菊に懐かれているか否かが、ではなくヘラクレスの蔑んだような、どうだ、というような目線が気に入らなかった。
大学で実験が立て込んでいたサディクはまだ菊とは多少ギクシャクした間柄だった。
そこまで考えて、自分が菊と仲良くなりたいと思っていると気付いたサディクはひとり深いため息をついた。
テストの最終日で高校が早く終わったヘラクレスは午後から菊と散歩に出掛けていたのだが、それが何故かびしょ濡れで帰ってきた。
サディクは何があったんでぃと聞いてみたが、ヘラクレスはいつものぼんやりした顔でお前には関係ないというし、菊は相変わらず能面のような顔で黙り込んでいるのでさっぱり解らなかった。
が、グプタはそうではなかったらしい。
ふっと微笑んで菊の頭を一撫ですると風呂場を指差した。
「ヘラクレスと入っておいで」
菊は静かに返事をしてヘラクレスと風呂場の方へ消えていった。
「・・・何だったんでぃ」
何か解ったような顔をしているグプタに問いかけても彼は微笑むだけだった。
しかし、風呂から上がってきた二人にはさっきの少ししんみりした様な空気は全く無かった。
菊はヘラクレスを見て目をきらきらさせているし、ヘラクレスは顔を真っ赤にしてどこか居心地悪そうである。
「何だぁ・・・?」
うっかり声に出ていたサディクの呟きに珍しく答えが返ってくる。
「・・・菊と一緒に入れば解る・・・」
当の菊といえばグプタに髪を拭いてもらっていた。
(こいつが来てから変なこと続きだぜぃ)
サディクの、風呂場の怪についての疑問は意外な形で解決された。
ヘラクレスが恥ずかしがっていたのを思い出して、まさかこいつと思ったサディクは菊にストレートに聞いてみた。
「おめぇさん、まさか女かい?」
「なっ・・・!私はれっきとした日本男児です!」
ニホンというのはどうやら菊の出身国らしいが、話の流れから菊が証明して見せましょう、と言ったので一緒に風呂に入ることになった。
脱衣所で既にサディクの考えが間違っていたことは証明されたが、サディクにとっての拷問はこれからだった。
「素晴らしい・・・!美しいですねぇ・・・」
なんと菊に肉体美を褒められた。
「ハークさんもなかなか締まった体でしたがサディクさんの肉体も芸術的です!」
(これか・・・!)
菊は芸術的観点から見ているようなのだが、見られている側からするとものすごく恥ずかしい。ヘラクレスが赤面しても無理は無い。現にサディクも真っ赤だった。
「いや・・・なぁ」
これ程早く出たいと思った風呂は無かったが、残念ながらサディクはこの後菊に触っても良いかと聞かれ、さらに無垢で純粋な好奇心に晒されることになるのだった。
(もうどうにでもしてくれ・・・!)
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裸の付き合いでちょっぴり仲良くなった二人