青春模様 ♯1

フランシス・ボヌフォアの家は学校から歩いて20分程であるが、彼のお隣さんにして幼馴染の本田菊と一緒に登校した場合30分になる。
昔からの癖で、菊と歩くときは気付くと彼女に歩調を合わせている。
彼のペースで歩いても、きっと菊はちょっと早足で着いてくるだろうが、それはジェントルとしての常識というものである、と自負している。
さて、行きも帰りもどちらからともなく一緒に登下校する二人ではあるが、今日の菊はなにやらおかしいことにフランシスは気付いていた。
何か、こう、ふわふわしているというか、もじもじしているというか・・・、とにかく普段の一本芯の通った彼女ではないようだ。
これではまるで・・・。
(!?)
その先を予想し、否定しつつ、未だ気持ち悪い態度の菊に取り敢えず尋ねてみた。
「おい、菊ちゃん?今日何かあったの?」
すると菊は顔をぱっと赤らめ目を輝かせながら、待ってましたとばかりフランシスにこう宣言した。
「私、好きな人ができたんです!」

(・・・まじで?)
辛くもフランシスの予想は現実のものとなったのだった。

菊は愛の伝道師(自称)のフランシスと違い、恋愛ごととは疎遠な少女だった。
それは、彼女自身が鈍いということもあるが、菊の兄である王耀とフランシスが悪い虫を払いまくったこともある。
王耀は近所では有名なシスコンで、商店街の皆さまは温かい目で見守っている。
フランシスが何故菊の恋愛ごとに関与しているのは、菊は昔よくいじめられていたので、男の子としてフランシスが守っていたから、その派生で今もそうなのだ。
と、自分では思っている。

しかし、今回は状況が違う。
菊から、相手のことを好きになったのだ。
今までに無いパターンに、フランシスは耀に言わず、少し様子を見てみようという結論に至った。
今日は耀が遅くに帰る日なので、菊はフランシスの家で夕飯を食べる。
この習慣は昔からのもので、逆にフランシスが菊の家で夕飯を食べたりもする。
フランシスは料理好きなので、休日は洋菓子を作って菊と耀に振る舞ったり、菊の和菓子や耀の点心を振る舞われたり、この両家の舌は一般人より肥えているといって差し支えはないだろう。
「で?」
「はい?」
菊はフランシス特製のオムライスを頬張りながら、首を傾げた。
彼女は食べ物のことになると全くこちらの話を聞かない。
「好きになった野郎ってのは、どこの誰さ」
「!?」
むせた。
菊に緑茶を渡しながら、フランシスは初々しい菊の反応をしげしげと眺めた。
「名前は?っていうかうちのガッコ?」
「・・・お名前は解りません」
はぁ?
きょろきょろと辺りを見回しながら頬を赤らめる菊に、素で言ってしまった。
「名前知らないの!?」
「で、ですが、学校は同じです・・・!」
聞けば、数学の提出用ノートの山を持って階段を登っていたら、うっかり一段踏み外したらしい。
菊は兄から護身術やらなにやらを一通り教わっているので、体のバランス感覚は非常に良い。
が、ノートを持っていたため一瞬判断が鈍ったようだ。
学校の階段で転ぶなんて・・・、赤面モノの瞬間を待ち構えていた菊だったが、ある男子生徒が後ろから支えてくれたらしく無事だったとのことだ。
しかし、振り返って見た男子生徒の顔が思いの外近くにあったらしく、別の意味で赤面する羽目になった。
(ベッタベターッ!!)
大和撫子な外見を裏切らず、少女漫画的な展開を好む菊は一瞬で恋に落ちた。

「で!?」
「なにがです?」
それ吊り橋効果ってやつだよね、と言いたいが堪えて、フランシスは相手の外見を尋ねた。
そして、菊は今まで見たこともない乙女な顔でこう言った。

ちょっと不良っぽい方でしたが、さらさらの銀髪に、綺麗な赤い目をした―――

悲しいかな、フランシスの脳裏には、ある一人の男しか浮かんで来なかった。
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菊♀とフランシスの幼馴染高校生パラレル




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