青春模様 ♯3
「きーくちゃん」
菊はこの高台に来るのが気に入っている。
ここから見える景色は絶景だ。
特に、空の変化が美しい。
フランシスがここに来たということは、もう全て知っているのだろう。
「・・・振られちゃいました」
自分は上手く笑えただろうか、いや、きっと失敗して変な顔なのだろう。
彼は苦笑いをしている。
「そっか」
フランシスが菊の近くに腰を下ろすと同時に菊は立ち上がった。
「・・・私、恋愛対象で見て貰えてなかったみたいです」
「うん」
菊が凹んでいる時のフランシスは輪をかけて甘い。
協力してもらったのに、と菊は思う。
「それに・・・彼は、他に好きな人がいますし、」
「・・・うん」
目を腫らせて帰ったら、耀に心配されるだろう。
その様を思い浮かべると、菊は少し可笑しくなった。
「ふふ、途中でごめんなさいって言って・・・逃げちゃいました」
「そう」
ええ、と言って菊は目を閉じた。
ギルベルトが、菊に恋愛感情を持っていない、俺には他に・・と言って目を泳がせた瞬間、菊は何かの呪縛から解かれたようにへにゃりと笑い、ごめんなさい、聞いてくれてありがとうございました、と言ってその場から駆け出したのだった。
今思えばみっともない真似をしたと思う。
ふう、と息をついて目を開けると、青と白の綺麗な空が見えた。
(これが、失恋)
はっきりとした言葉で表してしまうと、目頭がまたツンとする。
「ねぇ、菊?」
隣を見ると、フランシスもいつの間にやら立って空を眺めていた。
菊は無言で先を促す。
「俺さ、一個解ったことがあるんだ」
夏の太陽を浴びているフランシスの髪はキラキラと光っている。
菊と合わせた彼の瞳はビー玉の様に光を乱反射している様。
「俺、菊が好きだよ」
いつの間に溢れたのやら、菊の涙を指で拭ってやりながらフランシスは続ける。
「俺の好みはね、セミロングの黒髪で、スカートをふわふわさせて、石鹸の優しい香りがする大和撫子」
あっけにとられる菊にパチンと音がしそうなウインクを一つ。
「料理が得意だと尚良し」
菊は涙だらけの顔で洟を啜りながら、にっこり笑った。
(本当に、私の幼馴染は、優しい)
フランシスが見た中で一番綺麗な笑顔だった。
こうして、フランシスが気付かないところで育てていた恋愛の種は十数年建って花を咲かせたのである。
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最後はフラ菊!