
瀬人が自身の社長室のドアを開けた時に真っ先に目に入って来たのは、来客用のソファで眠っている遊戯だった。
新型デュエルディスクのテスト・モニタとして呼んだのだが直前にバグが発見されその処理に梃子摺ってしまった。
もう社長室の大きな窓から溢れんばかりの夕日が室内に降り注いでいる。
その光に反射して遊戯の身に着けている装飾品が鈍く光っている。
瀬人が室内に入って来たというのに遊戯は一向に目覚める気配がない。
思えばお互いに会うのも久しぶりだった。
瀬人の中で久しぶりの時間を己の失態で潰してしまった苛立ちと、今、こうして緩やかな時間の流れを心地良く思う気持ちが混沌としている。
(・・・最近は眠れているのだろうか。あの男がいなくなった時は暫く眠れなかったようだが)
前は遊戯の首から下がっていたあのオカルトアイテムは、今は鈍い光を返さない。
瀬人にとっても今までの好敵手の消失と新たな王の出現は多少なりとも衝撃を与えるものだった。
しかも、その新たな王が、自分が好意を寄せる相手だったら尚のこと。
(こんな、小さな体で)
抱きしめようとも、抱きしめたら崩れてしまいそうな、眠る遊戯がそれを良しとしない。
瀬人自身、遊戯がそんなに脆いものではないことは重々知っている。
精神面の強さはあの男以上だった。それもやはり遊戯が王たる所以である。
瀬人はそっと遊戯の閉じている目を手のひらで覆った。
起こしてしまうのは気が引けたが、あの宝石のような目が見たかった。
(お前は俺に何も背負わせようとはしない。その宝石のなかにすべて仕舞い込んでいるのか?)
瀬人の冷たい手が遊戯に触れている。
暖かい遊戯の体温が心地良い。
瀬人の手の内側に、遊戯の睫が動く感覚を察知する。
瀬人はゆっくりと手のひらを除いた。
(ああ、俺が何を思おうとも結局俺はこいつの目の)
むらさきに
しずんでいく
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