瞼の上に心地良い感触。

(冷たくて気持ちがいい)

目を開いてみると真っ暗だった。しかし、徐々に視界が開けてくる。
どうやら自分は眠ってしまったようだ、とここにきて遊戯は気が付いた。
瀬人の仕事の邪魔にならないように静かに待っていようと思ったのに、久しぶりのこのソファの感覚に酔ってしまったようだ。
大企業の社長室に顔パスで入れる特権。自分の学校を見回してもそんな特権を持っているのは自分だけだ。
そんな「特別」に自惚れている。
自分と瀬人はそういう関係ではあるが、やはり自分のそんな醜いところは隠せない。
だが、瀬人が仕事の関係で手を焼いているときに何も出来ない自分が悔しかった。
瀬人から何度も念を押され、その為に恥ずかしくなるのだが、やはりもう一人の自分がいなければ瀬人の目に留まることなく終わっていただろう。

(海馬くんはもっと俺を頼れって言ってくれる)

しかし、瀬人は自分よりも多忙なのだ。自分より頑張っている人に頑張れと言えないことと同じである。

(それに、ボクはなんであれ海馬君の目に留まってよかったと思っている)

瀬人が、思いを寄せるのは初めから遊戯だけだと言ってくれたが、目に留めたのはアテムが先であろう。

(そんなこと、どうだっていいんだ)

瀬人は寝起きの遊戯を穏やかな目で見つめている。
部屋の中は夕日でいっぱいだった。
こんなにも寝てしまったと遊戯が後悔しないのは、溢れるオレンジに侵されないほど近くに遊戯が愛する瀬人の、目があるから。
あの冴え冴えとした、深くて綺麗な、どんな宝石も適わない瞳。

(この目に映るのなら)

遊戯は瀬人の瞳を見て穏やかに微笑む。
今、この距離が、瞳のなかの自分たちのベスト・ポジション。

(ボクが君の瞳に映って、そうして)

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