乾燥した空気がエジプトの頬を撫でていく。
日が沈んだ為、砂漠はこれからどんどんと冷えていく。
灼熱と冷却の地獄。
砂漠を甘く見てはいけないことはエジプトが一番良く知っていた。
ここ数百年で興った青年達とは違うのだ。
(悠久・・・永く生きてきたものだ)
欧米の若者たちのような血気盛ん年頃は疾うに過ぎている。
目先のことで一喜一憂していては、威厳は保てない。
エジプトには力は足らずとも長老国としてのプライドがあった。
自身の文化、何よりもその永さに。
どんな手を使っても生き抜くということ。
自分より年若い者に支配されようとも、大切なことは自分が生きている、ということだ。
その点でエジプトは日本と違っていた。
日本は誰からの支配も退けようとした。
それが、彼のプライド。
誰のものにもならないという彼の意思が灯った激しい瞳を何度も目にした時があった。
今は穏やかだが、志は変わっていないだろう。

エジプトは永い時間、張り巡らされた罠に掛かったまま逃げられないでいる自分を自覚している。
そもそも無意識に張られたその罠から逃げるつもりもない。
エジプトが生き残る方法、それは罠から逃れず、騒がず、じっと目を光らせることだ。
(掛かっておいで)
いつからそこで動けずにいるのだろうか。
(きっと彼の目を見た時からだろう)
誰のものにもならないという意思を持った目が、罠から逃げない自分を見つける距離まで近づいてきたら決して逃しはしない。
こちらの罠に気付かず、自分の目の前で袖に絡みつく糸を見て日本はどんな顔をするだろうか。
そうしたら、きっとエジプトは微笑んで言うだろう。
「お前は私のものだ」
03 夜巣
(夜に巣食う)