情熱的に真っ赤なチューリップから一片の花びらがはらりと落ちる、という予感。
トルコは最近年を取った、と自覚することが多くなったような気がした。
隣のギリシャを若造と思う辺り、あながち間違っていない。
言い訳をする訳ではないが、その所為か昔より臆病になったようである。
一昔前の彼なら、少しでも欲しいと思ったものは何でも手に入れてきた。
もし、それが要らない物であったら捨てれば良いだけのことだ。
相手が離さない物が欲しいのなら奪えば良いこと。
解っていながらも肯定したくは無い事実。
力が、弱くなっている。
そしてトルコはガラス細工のように脆いものを、乱暴には扱えないものを知ってしまった。
しかし。
(それがどうしても欲しいもんだったら)
トルコの脳裏に桜並木の中で艶やかに振り返った日本の美しい笑顔が浮かぶ。
(どんな手を使っても、奪うしかねぇだろぃ・・・!)
地に着いた足が動かないもどかしさにいつしかトルコの顔は険しくなっていた。
自身を落ち着かせるようにふっと息を吐く。
落ち着くことだ、自分は誰だ?
(そうだ、それが壊れやすいんなら、壊れねぇように奪えば良い)
答えは単純明快。
自分は自分以外の何者でもない、という事実。
しかしそれはトルコにとって重要な意味を持つ。
(大切に、じっくりと)
それは獲物を狙う獣のように。
(あの人に一番似合う花に、一片の毒を混ぜて贈ってみるか?)
宵闇に紛れた毒は、日本にも気付かれずに彼を侵食していって。
ふわりと自分にしな垂れ掛かって来る日本はきっとトルコのものだろう。
どうしても、大切でも、欲しかったのなら?
(奪うに決まってらぃ!)
「はははっ・・・」
自分の思考を可笑しく思ったトルコは声に出して笑ってみた。
こんなことは無謀だと、良く知っているからだ。
長いため息をついて、可笑しな思考の終点にトルコは思う。
(だが、この思いの切れ端でも伝わって、お前さんに思い知って貰いてぇなぁ)
闇に溶けぬ真っ赤な一本のチューリップの贈り物に、彼が気付けば良い。
05 夜贈
(夜に贈る)